第3章 飴玉本舗✡摩訶不思議堂
渡された名刺には
『伊勢貝 廻』
と書かれていた
イセカイメグル…なんか凄い名前だな…
「あっ、そうだ
これ見て来たんですけど
“あなたの願いを叶えます”ってどういう意味ですか?」
スウェットのポケットからチラシを取り出すと
伊勢貝さんはニッコリと微笑んだ
「そのままの意味でございますよ
この飴を舐めれば、どんな願いでも叶ってしまうんです」
「どんな願いでも…?」
にわかには信じがたい
もしやこれは悪徳商法なんじゃないだろうか
「因みに、お幾らですか?」
「通常はおひとつ三万円でございます」
「さ、さんまん?!」
飴一つで三万って
有り得ない!
やっぱり詐欺だ!悪徳商法だっ!!
「初めてご来店いただきましたお客様には
初回価格と致しまして、今回に限りおひとつ一万円でご購入いただけますが、如何なさいますか?」
一万…
安月給の俺だけど、一万位なら財布に入ってる
「ホントに…
ホントにどんな願いでも叶うんですか…?」
「ええ、もちろんですとも」
伊勢貝さんが嘘を言うような人にはどうしても思えない
どうしよう
どうする、俺
ショーケースの前で一人、思い悩んでいると
つい1時間前の記憶がフッと蘇った
『相葉くんって自分勝手なエッチするのね』
誰かと比べられて
コケにされて
彼女だけじゃない
今思えば、俺が惹かれる女の子は決まって
気が強くてプライドが高かった
甘くて優しい愛に触れたい
俺のことだけを心から愛してくれるような
深い愛に…
「どうされますか?お客様」
「買う!買いますっ…!」
俺は財布の中からなけなしの一万円札を取り出して
伊勢貝さんの手の中にそれを握り込ませた