第2章 バーチャルな君と僕
「……もっかい聴こ」
余韻が消えない内に
タッチパッドに置きっぱだった指を動かし
マウスポインタを動画の中心部分まで移動させる
そのまま再生…って
思ったけど…
「どうせなら…もっとよく聴きたいな」
机の引き出しからおもむろにヘッドホンを取り出し
それをパソコンに接続すると
隙間がないよう耳にしっかりイヤーパッドをつけて今日2回目の再生ボタンを押した
サトくんの歌声が
直接、僕の頭の中に響いてきて…
あーすごい…
すごい、綺麗…
"泣いたら崩れてしまいそうで自分を必死に守ろうとする僕"…
"すべてを忘れたい
すべてを忘れて眠ってしまいたい"…
所々、自分にリンクする歌詞を口ずさみながら
ふと動画下に掲載されたコメントに目を遣った
『カズハさん
リクエスト曲、アップしました!
上手く歌えてるかわからないけど
もし良かったら聴いてみてください
サト』
サトくんの謙虚なコメント…
こういうのって性格が出ると思う
きっとサトくんは優しい人なんだね…
全然大丈夫だよ、サトくん
上手く歌えてるかなんて…
そんな心配いらないよ
「すごい上手いから…上手すぎて…」
サトくんの声が良すぎて…
僕…心が震えてる
泣きそうになってるよ…