第2章 バーチャルな君と僕
端末に曲をダウンロードして
歌詞カードもプリントアウトした
何度も何度も聴き込んで
僕は柴田淳の世界に浸った
“すべてを忘れてしまいたい
すべてを忘れて眠ってしまいたい
今夜だけ僕のためにうたってほしい”
“この世でただ一人のような
こんな毎日の裏側で生きてる
僕がまた眠れるまでうたってほしい”
…これはカズハさんの心の中のSOSだろうか
何か辛いことでもあるんだろうか…
僕に助けを求めてる…?
僕の歌で
カズハさんは元気になれるの…?
絶対に歌ってやろうと決めた
こんな僕でもカズハさんの力になれるなら…
僕は元々人前に出るのは好きじゃないし
目立つことは極力避けてきた
団体行動も苦手で
学校の休み時間には
誰に言われるでもなく延々と黒板消しをかけているような
ちょっと変わった子だった
そんなんじゃ虐められそうなもんだけど
何故か不良グループから可愛がられたりしてたっけな
運動は出来る方だから
チビで目立たなくても一目置かれるような所もあった
告白されたことだってある
だけど女の子と話すのが得意じゃなくて
今の今まで『恋』ってものを知らなかった
だけどカズハさんを想うと
胸がキュッと苦しくなる
これが『恋』なんだろうか
僕はカズハさんに『恋』をしているんだろうか
何処の誰かも分からない
会ったことも、本名さえも知らない
液晶画面の向こう側の、カズハさんに…