第1章 かりそめの遊艶楼
隣に居る子が、私の服の裾を掴む
ん?と見ればその子の目には涙が浮かんでいた
でも、唇を必死に噛んで流すまいと堪えているようだった
もう堪える必要などないのに…
泣きたいなら大声で、子供らしく
…泣いていいのですよ
「おいで…」
腕を解放するとその子は私の身体へすっぽり収まった
まるで先程の私のよう…
「気の済むまでお泣きなさい」
私の言葉にその子は大声で泣き始めた
それでいい…
頭を撫でてあげると
「藍姫様っ」
「藍姫様…!」
他の子達が泣きながら私の身体に抱き付いてきた
「わわっ」
耳元で鳴き声が大合唱して
揉みくちゃにされて…
見かねた奏月や琥珀、雅紀さんが助けてくれたけれど
私は嬉しかった
子供達が子供らしくしてくれて
嬉しかった…
「さとちゃんと和也と…
一緒に過ごせるのは今日の夜までなんだよね…
寂しいなぁ…」
「琥珀には太輔がいるでしょう」
「そうだけどさぁ…えいっ」
「あ、こらっ」
松の間で夜の為に荷造りをしている私にちょっかいを出す琥珀
持っていくものも特にないのだけれど
私のお気に入りの櫛を取り上げられて
「待ちなさい!」
「さとちゃん怖ーい」
ちょこまかと部屋の中を走り回り
最終的には廊下に出て、櫻の間まで逃げていってしまった
「…はぁ…」
寂しい気持ちを全面に出してくれるのは
嬉しいのだけれど…琥珀も私と同じ22
いずれ太輔とここを出るのだから
もう少し大人になってもらわねば…
「琥珀、櫛を…」
櫻の間に入ると
琥珀と奏月が私に向かって頭を下げていた
「どうしたのですか…」
「…さとちゃんと和也が居なくなっちゃうのは寂しい…でもいつまでもそんなこと言ってられないから
はい、さとちゃん」
「え…」
頭を上げた琥珀が私に櫛を返して…
あれ…
これは琥珀が奪った私の櫛では…
「私もいただいたのです、琥珀様に」
奏月が笑みを浮かべながら見せた櫛は
私が今受け取った櫛と同じものだった