第1章 かりそめの遊艶楼
箸を進めながら
時々視線を合わせてはニコリと微笑む
「ほら、和也もちゃんと食べないと大きくなれないぞ?」
「食べておりますもんっ!」
「ふはは。5年で身長どのくらい伸びた?」
「え、と…」
「2センチがいいとこだな」
ううっ…
悲しいかな、何も言い返せずに肩を落としていると
「キッチンには踏み台が必要になるな。
和也が料理しやすいようにして、それから…」
「翔様、あのぅ…」
「俺、料理全然できないからさ
和也、頼むな?」
「えっ…?」
話について行けず戸惑っていると
翔様が箸を置き、真っ直ぐに私を見つめて
そして両手を包んだ
「俺達の新居、実はもう押さえてあるんだ。
唇で交わした約束を果たしたい
和也。一緒に暮らそう。
…俺の嫁さんになってくれないか?」
あの約束から3年半
本当に…本当に迎えに来てくださった…
「返事は…?」
「勿論でございます…
私を…翔様のお嫁さんにして下さいませ」
この時を
ずっと、ずっと、待ち侘びておりました
愛しい翔様…
「大切にする。一生だ」
「嬉しい…」
「愛してるよ、和也」
「私も…愛しております、翔様…」
翔様を見つめて微笑む私に
同じように
優しい微笑みを返してくれた
私の一生をかけて
翔様を愛することを誓います…
朝食を済ませると
翔様が洗面に向かわれている間に
昨日、楼主様から頂いた包を広げた
5年ぶりの感触に
なんだかソワソワしてしまう
「和也、そろそろ行…」
洗面所から出てきた翔様が
私を見て言葉を失った
「あの…やっぱり似合いませんでしょうか、」
「え?! あ、いや、そーじゃなくて!
洋服着てんの初めて見るから、なんつーか、びっくりして…
似合ってるよ。良く似合ってる」
「ありがとうございます。
下まで、お見送り致しますね、」
「あぁ。行こうか」
差し出された右手を繋ぎ
長い廊下を歩き
ゆっくりと階段を降りた
「仕事が終わったら、迎えに来るよ
家具が揃うまではホテル暮らしになるけど
ずっと一緒だからな?」
コクリと頷くと
翔様がぎゅっと抱きしめてくださった
「行ってくる」
「行ってらっしゃいませ」
唇にひとつ、キスを落とした
開かれた扉の向こうに広がる空は
何処までも青く澄み渡っていた