第1章 かりそめの遊艶楼
浴槽に浸かって
開けた窓から見える月を2人で眺めた
今日は満月だった
「綺麗だな…」
「はい…」
「俺、和也と見る月が1番好きだ」
「…僕も翔様と見る月が1番好きです」
笑い合って、後ろからぎゅっと抱き締める
もうこのまま…離したくないな…
「今日泊まろうかな…」
「え!?」
勢い良く和也が振り返る
「お泊まりに…本気でございますか?」
「だって最後だろ?
思い出にさ、会社に間に合うように起きれば良いし」
「嬉しいです翔様…」
首に回ってる俺の腕を掴んで、和也が子供みたいに笑う
もう19なのに…でもそんな和也も好きだ
番頭から楼主に伝えてもらって泊まる了承を得た
食事を済ませた後、褥部屋で暗い中
色んなことがあったなと俺が呟くと
「翔様が外国へ行ってしまわれたり
ピアノをくださったり…」
俺の腕の上に頭を乗せた和也が笑いながら言った
「懐かしいな…和也は太夫になったしな」
「あの時は驚きました」
そのまま会話は弾んで、5年の内にあったことを語り合っていった
ついでに資金と施設のことも伝えられた
「…翔様、最後ですのに良いのですか?」
話の途中、そう心配そうに聞いてくるから
"今日はこれで十分"と布団の中で和也の手を掴み、指を絡ませた
身体を重ねて愛を深めるのもいいけど
ただ寄り添い合ってこうするだけでも、こんなにも愛って感じる
それを教えてくれたのも和也なんだよ
「和也…」
「はい」
「ありがとう」
「私は何も」
「生まれてきてくれて、ありがとう」
「……え」
揺れる、和也の瞳
目尻に溜まっていくものが
月明かりに照らされて光って…
すごく…綺麗だ
「ずっと…言いたかった
ありがとう和也
俺の前に現れてくれて、俺を変えてくれて」
「…しょ…翔様っ」
抱き付いてきた和也を大切に抱き締める
実は俺もちょっと泣いてたけど…和也には内緒にしておこうかな
泣き止むまで和也の頭を撫でながら静かに鼻を啜った
「朝起きたら…翔様がいるのですね」
「あぁ、居るよ」
「嬉しい…しょ…さま……」
泣き疲れた和也が寝息を立て始める
濡れた睫毛を拭いて、額にキスを落として
…最後の褥部屋を見渡してから
和也をしっかり抱き締め、俺も眠りについた