第1章 かりそめの遊艶楼
❦ 櫻井Side ❦
「そっかー良かったな、琥珀」
「はい、今では仲睦まじく
私の部屋にもお2人一緒にいらして
勉学やお作法や…色々なことを教えてくださるのですよ?」
「へぇー、そりゃいいなー和也」
「それから…それからですねっ」
「ははっ分かった分かった
聞くから、落ち着けって」
櫻の間に来てから和也の話が止まらない
次々出る話題に、うんうん相槌を打って
もう10分くらいだろうか
きっと久々に来たから話が溜まってんだ
会えなかった時間を埋めるように
一生懸命話してくれる姿が嬉しくて
咲かせてくれる笑顔が愛しくて
俺の口角も自然と上がっていった
「翔様…?」
「ん?」
伸びてきた和也の手が俺の頬に触れる
「…お疲れなのではないですか?
あまり、ご無理をなさらないでくださいね」
和也のその言葉に
あれ、うまく笑えてない?と自覚した
大丈夫だって
仕事もそこまで忙しいわけじゃないよって言ったけど、和也は気を遣ってくれて…
疲れてんのはきっと…いや、絶対
和也なのに…和也達なのに
何やってんだ俺
折角来れたんだから、もっとちゃんとしろ
「あれだ、年上の人にも代表代表呼ばれるから
気疲れだよこれは
だから心配ないって」
そう頭を撫でてやると
納得しきってはいなさそうだったけど、コクッと頷いてくれた
ホッと胸を撫で下ろし、"和也"と腕を広げる
「…ふふ、とぉっ!」
「うおっ!」
嬉しそうに飛び込んできてくれた和也を
後ろへ倒れそうになりながらキャッチする
あまりの勢いに容赦ねぇーなって笑うと
和也もつられて笑った
…幸せだ
笑い合ってるこの時間が、空間が
早く和也を俺の傍へ迎えたいよ…
その為ならなんだってするから
疲れなんてへっちゃらだから
だから和也も…
あまり、言いたくはないけど
「和也」
「はい」
「…頑張れ、借金が終わるまでの辛抱だ…」
「はい…翔様」
俺の腕の中に収まる小さな身体を
後何日、何ヵ月、何年…他のやつに抱かれてしまうのか
想像なんて…できないんじゃなくて
したくない
でも、借金返済後の長い長い未来の為だ
「愛してる、和也」
「僕も…愛しております、翔様だけを」
溶けるような口付けを交わして
俺達はひとつになった