第21章 探偵、美術館へ行く/沖矢、コナン
まずはぶつかってしまったことを謝ると、昴さんは無言で私の右手を掴み近くのベンチへと座らせた。
「というか昴さんはなぜここに?」
私の横に並んで腰かけた昴さんの方を見る。身長差があるせいで自然と見上げるような形になった。
「あなた達が走っていくのが見えたもので、気になって追いかけてしまいました。」
私の視線に気づいているのかいないのか、昴さんは表情一つ変えずに窓の外の庭園を眺めている。
「コナンくんのさっきのあれ、昴さんは何か知っているんですか?」
「人は誰しも他人には言えない秘密を抱えているものですよ。…もっとも、彼の場合は少々特殊なようですがね。」
肯定とも否定とも取れるような返答。
言外に教える気は無い、という事なのだろう。
些か納得はいかないが、ここは引いた方がよさそうだ。
ふと視線を上げると、電話を終えたコナンくんがこちらに気付いて近寄ってくるのが見えた。
そのコナンくんには聞こえないように、昴さんの耳元に口を近付ける。
「私、知識欲だけは強い方なんですよね。」
あなたに教えてもらえないなら自分で探ります、という意味を込めて挑発的に口角を上げた。
普段は細い昴さんの目が少しだけ見開かれた気がした。
「2人とも、どうしてここにいるの?イラスト見てたんじゃなかった?」
駆け寄って来たコナンくんは至って普段通りだった。
安堵すると同時に、ついあの蝶ネクタイに目がいく。
「さくらさんが少し疲れてしまったみたいで。休んでいたんですよ、ね?」
話を合わせてくれますよね?と昴さんからのアイコンタクト。ここで断る理由はない。
イエスの代わりに瞬きをしてみせる。
「そうなの?大丈夫?」
純粋な目で心配そうに見上げてくるコナンくんに少しだけ心が痛んだ。