第46章 ポアロにて/T様へ
突然、すぐ後ろで何か割れるような大きな音が響いた。驚いて振り返ると、そこには慌ててガラス片を拾う梓さんの姿。
「す、すみません!手が滑ってしまって…。」
「大丈夫ですか?怪我は…、」
持っていたお盆を落としてしまいそこに載っていたカップが割れたようだが、幸いなことに破片が広範囲に飛び散った様子はない。掃除機を取りに行った安室さんが戻ってくるまで手伝おうと梓さんの隣にしゃがんだ。
「あの、」
比較的大きめの破片を手に取った時だった。こそりと耳打ちでもするかのように控えめな梓さんの声。
「さくらさんは、その…安室さんとそういう関係なんですか?」
「…え?」
「好きなコーヒーの味とか家に行ったことがあるとか…あ!たまたま聞こえちゃっただけなんですけどね!?その、ちょっと気になって…」
思わず目を見開いた。
私と安室さんは客観的にそう見えていたのか、そんなつもりはなかったがさっきの会話だけではそう判断されるのも無理もない。しかしここで強く否定するのもかえって怪しまれるだろうか。いや、梓さんのことだからきちんと説明すればきっと分かってくれるはず…ってちょっと待って、どう説明するの?組織のことなんて言えるわけないしじゃあどこで知り合ったことにしたらいい?家にまで招く仲の男友達として不自然でない言い訳を…