第45章 再会/H様へ
日本での講演もデモオペも大成功で、上機嫌な教授は4日目にしてやっとまとまった休憩時間を私に取らせてくれた。
「ごめんごめん、急だけど今日の午後フリーでいいよ!ほら、日本の友達に会って来たら?」
ありがとうございます、と返してはおいたものの今日の今日でつかまるような友人はおらず。
折角だからと久しぶりに行きつけだった書店へ足を運んだ。
好きな作家の新刊からタイトル買い、新書からハードカバーまでとにかく目に付いた気になる本を片っ端から手にとってはカゴに入れていく。
左手に持ったそれがミシリと音を立てて、そろそろ会計をしようかと顔を上げた時だった。
棚の間を横切った1つの人影。
見覚えのあるその髪の色に思わず後を追う。
彼女は3つ先のファッション雑誌のコーナーで足を止めていた。
平積みにされた本を手に取り、逆の手で顔にかかった髪をかきあげる。
「哀、ちゃん?」
その横顔には幼かった頃の面影がはっきりと残っており、思わず口をついて出た名前に慌てて口を押さえた。
しかし幸か不幸か私の声は彼女には届いていなかったらしい。
先ほどまでと変わりなくパラパラと雑誌をめくっている。
そういえばこの書店は雑誌から専門書まで幅広く揃えていておすすめだと彼女に紹介したのは私だった。
見つかる前にと踵を返す。
彼女の中にまだ私が残っていることが嬉しくてレジに向かう頰が少しだけ緩んだ。