第44章 安息の時はまだ/K様へ
「テメェが男とホテルになんか行くからだろうが!」
前のめりになった体を起こそうとすると、肩を思い切り掴まれて運転席の方を向かされる。
見たこともないようなジンの剣幕に、びくりと体が強張った。
「え、あ、それはちょっと、誤解を招くというか…。」
確かに間違ってはないけどさ、と目を逸らすと、足元に置いた鞄が視界に入った。
その鞄の中で赤い小さな光がチカチカと点滅している。
携帯は手に持っているし、他に光るものなんて入れていなかったはず…。
ジンの手を振りほどいて鞄に手を伸ばした。
鞄から出てきたのは親指の先ほどの小さな黒いプラスチックの箱。
爪で軽く叩いて見るとカツンと軽い音がする。
「これ、何?」
見覚えのあるそれは、私の記憶が間違っていなければ発信機付きの盗聴器だ。
もちろん私が自分で入れた覚えなどない。となれば犯人は1人しかいない。
これで形成逆転とまでは言わずとも完全なる劣勢は回避できたはずだった。
「知っての通り、発信機と盗聴器だが。テメェの鞄に た ま た ま、入ってたんだろ?運が悪かったなァ。」
ぐっと言葉に詰まる。
ジンが仕込んだのは間違いないはずなのに、証拠は何もないのだから。
「っでも!これを使って私が安室さんと一緒にいるって知ったわけでしょ!?」
「そいつのおかげで俺の死が疑われてることを知れたんだぜ?機転を利かせてニックに変装して行ってやったことを感謝してほしいくらいだな。」
「…そうだね、ありがとう。心配かけてごめん。」
そう言われてしまえば何も言い返せない。
俯いて謝罪の言葉を口にすると、ジンの溜息が聞こえて再び車は動き出した。
「次からは誰とどこに行くかくらい、言って行け。」
正面を向いたまま紡ぎ出された言葉にほんの少しだけ拗ねたような声音が混ざって、思わず口角が上がる。
「そうだね、ごめん。」
窓の外は見慣れた街並みが戻ってきていた。