第44章 安息の時はまだ/K様へ
(安息の時はまだ)
シカゴは朝と夜の温暖差が激しい。
こちらに引っ越してもうじき半年を迎えようとしている私は、彼との待ち合わせに上着を持って来なかったことを後悔し始めていた。
現在の時刻は午後5時。
昼間のギラギラとした日差しは落ち着き、目の前を行き交う人々にもちらほらジャケットを着た姿が見える。
ビル風が吹き上げて、二の腕をさするように身を縮めた。
「そんな薄着では風邪を引きますよ。」
ふわりと肩にかけられたのは男物の白いジャケット。
待たせてしまいましたか?と顔を出したのは私の待ち合わせの相手である安室さんだった。
安室さんから連絡が来たのはひと月ほど前。
“お久しぶりです。今はシカゴにお住まいだとコナンくん…いや工藤くんから聞きまして。実は来月FBIとの合同捜査で渡米するんです。丁度近くまで行くので食事でもいかがですか?”
以前と変わらないようなメールを送って来たことにも驚いたが、そもそも私は引越すにあたり携帯電話もパソコンも何もかもを新調していた。
コナンくんにさえ教えていないはずの、新しく取得したアドレスに 差出人:降谷 という文字を見た時には思わず目を擦ったものだ。
しばらく悩んだ結果、家に上げさえしなければジンのことはバレないだろうと踏んだ私は、彼とここシカゴで会うことを決めたのだった。