第38章 賽は投げられた
(賽は投げられた)
ちらほらとスタッフの姿が見えるだけでほとんど人気のないロビー。
左右に視線を走らせると、エレベーターに乗り込むジンの後ろ姿が見えた。
反射的にそちらへ走り出す。
足に纏わりつくロングドレスも高いヒールのパンプスも、ベルモットが貸してくれた高価そうなアクセサリーでさえ今は邪魔でしかなかった。
エレベーターの前へ着いたとき、既に扉は閉まっていた。
今まさに上昇を続けているのは中央の一基だけで、それもすぐにRを指して止まる。
ジンは屋上か。
組織の仕事だというのなら私が行っても構わないだろう。
思い返せば組織の仕事内容や目的など詳しく教えて貰ったことなどこれまでになかった。
流れでそうなったとはいえ組織に所属している者として知る権利くらいはあるはずだ。
迷わず隣のエレベーターに乗り込んでボタンを押す。
扉が閉まる直前、何事かを叫ぶコナン君の声が聞こえたような気がした。
エレベーターが目的地に到着した事を告げて、静かにその扉が開く。
ゆっくりと外へ出てみると、ぽつりぽつりと申し訳程度に設置された照明がジンの姿を微かに浮き上がらせていた。
「フン、それはわざわざご苦労なこったな。」
どうやらジンは誰かと話しているようだった。
残念ながら強く吹いている風のせいで途切れ途切れにしか会話は耳に入ってこない。