第37章 デジャビュ?/ジン,ベルモット
クローゼットの奥に仕舞いっぱなしだったネイビーブルーのロングドレス。
未だタグもついたままのそれに初めて袖を通した。
「前にジンに買ってもらったの。着る機会がなくてずっと箪笥の肥やしになってたんだけど…。」
恐る恐るリビングへ顔を出す。
目の肥えたベルモットになんて言われるだろう、イマイチねなんて言われたら立ち直れないかもしれない。
しかしその心配は杞憂に終わる。
「あら素敵!私が持って来たどのドレスより似合ってるわ。ジンも中々いいセンスしてるじゃない。」
破顔したベルモットと、満更でもない様子で僅かに口角を上げたジン。一先ず安堵の溜息をついた。
それに合わせたヘアメイクは私に任せて、とベルモットに促されるままソファに腰掛ける。
大きなバニティーケースから出て来るたくさんのメイク道具に圧倒されている間に、メイクからヘアセットまで完成されていく。
「これでどうかしら?」
最後に私の唇にルージュをのせると、ベルモットは私に手鏡を持たせてくれた。
その鏡の中には今までに見たこともないような私の顔があって、思わず口からは声にならなかった吐息が漏れる。
「ほーら、そんな顔してないで笑いなさい!折角の美人がその表情で台無しよ。ねえ、ジン?」
「ああ、よく似合ってるじゃねえか。」
思いもかけなかったその言葉に目を見開いた。それはベルモットも同じだったようで、お互いに顔を見合わせる。
「なんだテメェら、揃ってアホみてぇなツラしやがって。」
「ジン、あなた今…。」
「準備終わったんなら行くぞ、時間ねえんだからよ。」
ベルモットの言葉を遮るようにしてジンは立ち上がった。
いつもより深く被った帽子の隙間から覗く肌に少しだけ紅が差していたように見えたのは私の気のせいだったのか、それとも。