第36章 ショッピング/灰原
「これどうかな?ちょっと派手?」
「いいんじゃない。あなたの服落ち着いた色が多いから、1枚くらいこういうのがあっても。強いて言うならそれより赤色の方が合わせやすいと思うわ。」
なるほど、と頷いて隣に掛かっていた赤いスカートをカゴに放り込んだ。
私が服を買うのにも哀ちゃんは快く付き合ってくれた。
普段からファッション雑誌を読んでいるだけあって中々的確なアドバイスをしてくれる。
客観的な意見がもらえるのは非常に有り難かった。
「…?どうしたの?」
突然哀ちゃんが足を止めた先には一体のマネキン。
「わ、このワンピースかわいいね!」
シンプルなデザインではあるものの綺麗なシルエットのそれは一際目をひいた。
「このブランド、好きだったのよね。」
好き、だった。それが過去形であるのは恐らく体が小さくなる前によく着ていたと言うことだろう。
子供服も展開してくれればいいのに、と哀ちゃんは笑ったが、目はそのワンピースに釘付けのままだ。
「すみません、このワンピースなんですけど、」
たまたま近くを通りかかった店員さんを呼び止める。
不思議そうな顔をした哀ちゃんを他所に、在庫の確認をお願いした。
「エンジと紺があるらしいんだけど、哀ちゃんなら紺色だよね?」
「そうね、もしも私が着るとしたら紺色を選ぶけど…でもどう考えたって私が着れるサイズじゃないわよ?」
相変わらず頭にクエスチョンマークを浮かべたような彼女に向けてウインクをしてみせる。
「体が元に戻った時に着る服が一着も無かったら困るでしょう?」