第29章 (番外編)クリスマス
包装紙に示された住所には見上げるほどの高層マンションがそびえていた。
思わず何度か瞬きをする。
本当にここの鍵なのだろうか。
部屋の前まで上がってきてはみたものの、流石に勝手に鍵を回すことは躊躇われた。
扉の上を見ると、表札は出ていないが電気のメーターは回っている。
意を決してインターホンに指を伸ばした時、扉の向こうでガチャリと鍵の開く音がした。
驚いて一歩後ずさる。
「誰だ。」
細くドアが開くと同時に飛んできた鋭い声。
チェーンロックの下には物騒なことに銃口が見え隠れする。
しかし私にはその声に聞き覚えがあった。
「…もしかして、ジン?」
おそるおそるその名を口にする。
すると扉は一度閉まって再び大きく開いた。
◻︎
「あの女だな。」
「あの女?」
「ベルモットだ。こんな回りくどいことをするのはあいつしかいねぇ。」
ロッカーに入っていたワインを傾けながらチーズをつまむ。冷蔵ロッカーに入っていた包み紙の中身はチーズのブロックだった。
ジンの部屋に入るなり、なぜこの場所を知っている、やら、その鍵はどうした、やら質問責めにあった。
何とも説明しようがなくて、実際にうちに届いていた手紙と封筒を見せたところ、先程の台詞である。
「でも、ジンの家の合鍵を何でベルモットが?」
「手癖が悪ィんだよ。昔からな。」
ジンは私の見せた封筒にマッチで火をつけると、それでそのまま咥えた煙草に火をつけた。