第5章 臥竜
「組長、おはようございます」
「ん…もうちょっと…」
「もう…甘えん坊だな…」
翔のたくましい腕が俺を抱きくるめる。
「翔が甘やかすからこうなるんだよ…」
目を閉じながら言うと、まぶたに唇が触れる。
「だって組長かわいいんだもん」
「男に向かってかわいいっていうなよ…」
「本当のことだもん」
ぎゅううっと抱きしめられると、翔のにおいがする。
すうっと息を吸ってその匂いを胸いっぱい吸い込む。
「智…もうちょっとだよ…」
「うん…」
「静かに暮らそうな…」
「うん…」
「たまにはあいつらも呼んでやろうな」
「うん…」
「…しあわせになろうな…」
「翔…」
そっと翔が俺の髪を撫でる。
「智…そのまま聞いて」
「なに…?」
「矢崎…」
その名前を聞いただけで身体に力が入った。
「やっぱり、そうなんだね?」
「なんのこと…」
翔の腕を出ようともがいたけど、その腕は俺を離してくれない。
「智のこと、傷つけたのは矢崎なんだね?」
「知らない…」
「智、俺を見て」
恐る恐る顔を上げると、翔は怖いくらいの笑みを浮かべていた。
「始末、したから」
「え…?」
「だからもう、苦しまないで…」