第19章 folder.3
「櫻井、なんか顔つきが変わったな」
久しぶりに会った渋谷さんに誂われた。
「そうですか…?」
「ええ顔になったやないか…」
そう言って差し出された火の付いたタバコ。
受け取って、肺いっぱいに吸い込んだ。
「元々いい男ですから」
煙を吐き出しながら言うと、渋谷さんは笑った。
「ボンを、しあわせにせえや」
「え…?」
「まあ、なんや…お前なら大丈夫や思うで」
また新しいタバコに火を着けた。
「渋谷さん…知ってるんですか?」
「まあな。同じ穴のムジナっちゅうやつや」
「まじで…?」
「まじや。まあ、そういうことや…」
「まさかアンタ…」
思わず胸ぐらを掴んだ。
「おっ…ちょお待てや!俺はボンとはなんにもないからな!」
慌てる姿にぱっと手を離した。
「そうですか…」
「おまえなあ…」
「すんません。でもボンに触れるやつは許しませんから」
「櫻井…」
「金輪際…俺以外のやつには触らせないんで」
そういい捨てて、露天を後にした。
「おい!櫻井!」
呼ばれて振り返った。
「その狂犬みたいな目…ひっこめんと死ぬぞ…」
持っていたタバコを道路に落として踏み潰した。
「大丈夫…普段は隠してますから」
そう言うと、渋谷さんはごくりとツバを飲み込んだ。
その顔がちょっとおもしろかったから、俺は笑いながら車に戻った。
そう…
この人のいい顔も、智のことになるとトチ狂う顔も…
全部全部利用して…
俺はのし上がってやるんだ
懐の携帯電話が鳴る。
「もしもし…ボン…」
今から帰るよ…
お前の元へ
【Folder.3 END】