第18章 folder.2
大野組に来て、半年が経った。
ヤクザの事務所に就職したはずなのに、俺はとんと修羅場なんか経験したことはなかった。
組の人は怖いし、やっぱり暴力を目の前でみたりすると、今まで生きてきた世界とは違うんだなと感じたけど…
俺自身が危険な目に遭うことはなかった。
家に居たほうが、よっぽど修羅の世界だったろう。
今は亡き恋人のことを思うと、時々気分が滅入って仕方なかった。
捨ててきた家族のことなんか思い出すことはなかったけど…
涼介のことだけは、時々思い出しては涙を流した。
どうやら俺は捜索願も出されていないらしい。
家族は完全に俺のことなんて捨てたんだ。
それまで硬いと思っていた地面は、急にスポンジみたいに柔らかく感じて。
どこに居ても何をしていても、俺は現実感がなかった。
「櫻井…櫻井?」
「あっ…はい!」
この日は初めて喜多川の家に連れてこられた。
大野組は、極東翼竜会という組織に所属してる。
そこの喜多川一家の傘下だ。
今日はボンがここの総長と会うというから、一緒にくっついてきた。
いつもは本家に来る時は、城島さんが一緒に行っていたが、今日は四国の組で起こったいざこざのため東京に居ないから、代わりに俺が一緒に来た。