第14章 啼き竜
「和也…起きて…」
「ん…?」
潮騒が聴こえる。
ああ…そうか、ここは海辺の家…
明るかった部屋が薄暗くなっている。
「どうしたの…もう夜…?」
「ほら…もうすぐ夕日が沈むから見よう」
智がバスローブを羽織ってベッドから降りた。
窓辺に近寄ると、カーテンを開け放った。
海の先、水平線にオレンジ色が見えた。
「わ…凄い…こんなに綺麗に見えるんだ」
「そうだよ」
ベッドに戻ると、ベッドヘッドに寄りかかって座った。
俺も布団を引き上げて、智の膝に掛けながら一緒に座った。
並んで座ると、室内の冷気も緩む気がする。
智の腕が俺の肩に掛かった。
引き寄せられると温かい。
水平線のオレンジがだんだん沈んでいく。
鮮やかに海面に光が反射している。
「凄い…こんなに鮮やかなオレンジ…」
「ああ…綺麗だなぁ…」
むき出しの肩に、智の手の温度が沁みた。
その温かさに酔っているうちに、太陽は海へとすっぽりと姿を隠した。
あとに残るオレンジの空は、だんだんグレーに飲み込まれていく。
雲に反射したグレーとオレンジは、まるでモネの油絵の様に綺麗だった。
「和也…」
「智…」
オレンジが消えてしまう前に、唇が重なった。
あんまりにも綺麗で…しあわせで…
涙が出た。
「泣くなよ…」
見上げた智の目も潤んでいた。
見つめていると、ぽとりと一粒綺麗な雫が落ちてきた。
「泣いて…いいよ…」
思い出してもいいよ。
それを俺にもちょうだい。
俺は、あなただから…
あなたは、俺だから…
「翔…」
つぶやいたあなたを、俺は抱いた。
初めて愛おしい人を抱いた。
抱きながら俺は、遠くの海を眺めていた。
腕の中の竜が、啼いている
【啼き竜 END】