第12章 竜飛
ぎゅっと握られた手を握り返した。
「もう…大丈夫だよ」
「…わかった」
微笑むと、静かに手は離れていった。
和也は立ち上がるとリビングの明かりをつけた。
草彅が戻ってきた。
手にマグカップを持っている。
「とりあえずコーヒーでも飲もうや…」
三つ、ローテーブルに置くと、俺達の向かい側に腰を下ろした。
「今、なんか適当に作らせてるからよ」
「ああ。ありがとう」
「智よ…」
「うん?」
「…大丈夫みたいだな」
「ああ…」
三人、黙りこんでコーヒーを啜った。
「明日から…俺は動くぞ」
「ああ。あいつの残したデータ使ってやってくれ」
「そのつもりだ」
「草彅」
「…はい」
「懲罰委員長の任を解く。後は自由に動いてくれ」
「ああ…」
それから夜食が出てきて、俺たちは寝室へ草彅は客間に引き上げていった。
静かに心に湧き上がってくる物があった。
それは、憐憫でもない。
恋慕でもない。
復讐心でもない。
憎悪でもない。
不思議な感情だった。
凪いだ…海の上…
「智…」
隣には和也が居る。
俺の…恋人。
しっかりと抱きしめると、視界がくっきりとした。
やるべきことがただ目の前にある。
ただそれだけのことが、俺の目を開かせた。
的は、逃がさない。
【竜飛 END】