第9章 切迫の淵
「え…俺が!?」
「いいんじゃねえか。松岡は総長に近いからな」
「ちょっと待ってくれよ…」
「ただし、近藤と東山…お前らがきっちり後ろ盾だ」
「ああ…分かった」
「それは任せろ。俺達が本来ならならなきゃいけないとこだ」
「二人にはまだ動いて欲しいから…若頭はガチガチに縛られる。だから…松岡、おまえに任せたい」
松岡は暫く歯をくいしばってこちらを見ていた。
「…俺の駒になって欲しい。信用できる奴が欲しい」
「総長…」
隣にいた山口がポンと肩を叩いた。
「若頭にしかできねえことだってあるぜ?」
「山口…」
「俺らもバックアップする」
松岡は再び俺に目を移すと頷いた。
「御役目、引き受けます」
「ありがとう…松岡…」
松岡が俺に向かって頭を下げると、皆頷いた。
「じゃあ、すぐに小杉は解任する。ここに呼んでくれるか」
「え…もう?」
「松岡の若頭就任の盃は、俺の総長就任と同時にする。いいな」
「わかりました」
東山が切れるような目でこちらを見た。
近藤はこれからいたずらをする子供のような顔をしていた。
「松本、小杉呼んでこい」
賽は振られた。
小杉、お前…今、切迫の淵にいるんだぜ…?
一思いに…殺しちゃやらねえよ。
総長になる前に俺を殺しておかなかった、お前の度胸のなさを恨むんだな。
「失礼します。小杉参りました」
怯えた顔の男は、竜の巣に飛び込んできた。
【切迫の淵 END】