第8章 竜鳴
床の前には座布団が一枚。
本来なら、大野の盃は大野でやるのだが、この場合は緊急なので喜多川で一遍に済ませる。
イレギュラーだらけだが、しょうがない。
座布団に腰を下ろすと、俺の正面に草彅と長瀬が腰を下ろした。
口上人(司会者)である小杉が声を上げた。
「只今より、大野組組長大野智殿と長瀬智也殿の親子盃、喜多川組総長喜多川智殿と草彅剛殿の親子盃の儀、挙行させて頂きます」
草彅と長瀬が畳に手をつき頭を下げる。
「まずは大野組組長大野智殿と長瀬智也殿の親子盃の儀を挙行いたします」
東山が三方に載せた盃を差し出す。
そこに世話人である松岡が神酒を満たす。
ぐっと飲み干すと、長瀬に差し出す。
受け取った盃にまた松岡が酒を満たす。
「この度はご指名頂き有り難き幸せにございます。盃を頂戴致しましたら、精進し大野組を支える所存です」
長瀬はそれをぐっと飲み干し、懐紙を取り出しくるんで懐に収めた。
見届人である近藤が、諾と頷く。
床の間に置いてある、二つの盃を松岡が取り、そこに酒を満たす。
左右の列席者の上座から、その盃を回していく。
酒がなくなれば、相葉が注いでいく。
列の最後まで行ったら、左右の盃を入れ替え、再び上座の方へ回していく。
こうして満場の賛同を得て、大野組組長である俺と長瀬の親子盃は完成する。