第3章 取り残された竜
「組長、今日から防弾チョッキ付けてください」
「はあ?」
若頭の相葉が神妙な顔で部屋に持ってきたのは、分厚いもので…
「こんなもん着てたらあせもできちまうよ」
そう言って一蹴しようとしたけど、引き下がらない。
「おまえよお…」
「小杉の野郎が、どんな手で来るとも限りませんので…」
「そんときゃ、そんときだろうよ」
「総長の名乗りを上げるまで、とにかくお願いします」
ものすごく真剣な面持ちでいうから、仕方なく付けてやった。
「行くぞ…」
今日は喜多川の姐さんに呼ばれているから、行かなきゃならない。
姐さんは総長の姪で、今は総長に代わって喜多川一家を取り仕切っている女傑と言っていいだろう。
総長はずっと独身だったから、この姐さんが唯一の血縁ってことになる。
姐さんは若いころに親を失って、それから総長のところに身を寄せているうちに、極道にどっぷり浸かりこんだってわけだ。
俺も早いうちに親を失ったから、姐さんはよく目をかけてくれてる。
だからこそ、総長の跡目は辞退したかったのに…
姐さんが跡目をとるべきだと、俺は思ってる。
「なあ相葉…」
「はい」
「やっぱり女が跡目じゃだめなんか?」