第7章 レクイエム
浜辺にベンチがあったから、二人で座って。
暫く波打ち際を眺めた。
堤防の上に、釣り人がいる。
釣果は上がったのだろうか。
「釣り…したいな…」
「え?智、釣りするの?」
「うん…内海のおじさんに教えてもらった…」
赤坂のクラブで死んでしまった幹部の名前を出した。
「小さいころ、親父が忙しいからよく釣りに連れて行ってくれたよ…」
それからぽつぽつと、死んでしまった幹部たちの思い出を智は語った。
泣くわけでもなく、それは続いた。
淡々と、懐かしい思い出を…俺の知らない智を、教えてくれた。
「…智…?」
長く語った後、暫く沈黙があった。
「だからね…翔…」
「うん…」
「弔い合戦は…しなきゃいけないんだよ…」
「…わかった…」
この人は…脆いくせに人間が大好きで…
弱いくせに、守るものをたくさん抱えて…
「俺が…支えるから…存分にやろう…智」
俺の手を握ると、智は海を見たままこっくりと頷いた。
「ありがとう…翔…」
その横顔は、誰よりも美しく…
そして強かった。
祈るように目を閉じる。
涙が一筋、頬を伝っていった。
【レクイエム END】