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ごった煮短篇集

第1章 ジョーカーゲーム・神永



俺が彼女と付き合い始めて、約三ヶ月が過ぎた。
それだけの時間は、彼女の周囲から情報を奪うのには十分な時間だった。

なまえは海軍補佐をしている苗字の娘だ。
ここ、中国で機密漏洩が発覚し、四ヶ月ほど前から潜入していたが思うように情報が集まらず、軍人がよく出入りするというパブでカマをかけることにした。
そこで出会った日本人海軍補佐である苗字と仲を深め、その娘であるなまえと関係を持ち、そこから情報を仕入れることに成功する。

それも、終わりに近づいていた。

今回はスマートな終焉を迎えることが出来そうで、俺も安心していた……はずだった。

ベッドの上。柔らかな月の明かりが背中を照らす。
俺は寝っ転がったまま肘をつき、腕の中で眠る裸のままの彼女を見下ろした。

こういったことは初めてではない。D機関では女性の口説き方まで習学した。さらに言えば、仕事上、すでに何度も経験はある。
だというのにだ。
どこか、胸の内がスッとしない。

素肌を滑るシーツが心地よく、とろりとした睡魔に瞼が落ちかける。俺は、グッと腹に力を込めて大きく息を吸い込む。
ぽってりとした彼女の二の腕に指を這わせる。月光の下、青白く光るなまえの腕は滑らかであたたかく、またすぐにでも手のひらで確かめるように撫でたくなる。

……どこか、おかしいのかもしれないな。

二の腕を通り、細い首筋を撫で上げ、俺の胸にピッタリと吸い付いていた背中へとまわる。
もぞり、と彼女が動いた。
起こしただろうか。

「……ん、ん」

鼻に抜ける声。
柔らかな身体が捩れる。

仰向けに転がったなまえの双丘がよく見えた。
無防備なその姿に、思わず笑みが溢れる。見ず知らずの男の前で何をしているんだ。俺の、本当の名前さえも知らないのに……。

キリッと奥歯が軋む。
なぜ悔しがる必要があるのだ。
本当の名前を教えたところで、俺は彼女をどうしようというのか。本名を教えれば、それだけ俺の命が危険になっていく。仕事に差し支えれば、用済みになる。

たわわな胸を前にくだらないことを考えながら、そっと胸の間に指を当てた。
外気に触れていた二の腕とは比べ物にならないくらいに熱い。
指先で谷間を割り、次いで手のひら全体で鳩尾を撫でた。時折触れる胸が指をはじき返してくる。気持ちがいい。
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