第7章 お泊まり
翌日の授業は、あまり身が入らなかった。
そんなわたしとは裏腹に、教室の中はいつもどおりだった。
いつもどおり、授業をすすめる先生。
いつもどおり、わたしに冷たい女子生徒たち。
いつもどおり、一番前の席で堂々と居眠りするおそ松くん。
いつもどおり、授業中にぼりぼりと大きな音をたてながらスナック菓子を食べている一松くん。
そうして、いつもどおりに、やっと長い1日が終わった。
否、終わってしまった。
「ねえ、一松くん」
帰りのホームルームのあと、帰り支度をしている一松くんに、声をかける。
一松「…ん?」
一松くんは、(おそらく今日一度もひらいていないであろう)教科書を鞄に詰め込みながら、顔をあげた。
一松「どうしたの」
「あの……カラ松くんから聞いてる? わたし、今日おうちに泊まりに行くことになってるの」
一松「……ああ、うん。聞いてるけど」
おそ松「んー、なになにー? なんの話ー?」
突然、うしろからおそ松くんに抱きつかれた。
「ちょっ……おそ松くん、いきなり抱きつかないで」
おそ松「ごめんごめんー。で、なんの話だったの?」
口ではごめんと言いながらも、おそ松くんは離れてくれない。
おそ松くんは、前からこういう人だ。
一松「が今日うちに泊まりに来る話」
おそ松「えっ!? ちゃん、今日うちに泊まるの!?」
一松「…きのうカラ松が母さんに言ってたじゃん」
そのとき、突然、わたしの背中に抱きついていたおそ松くんが、何かによって引きはがされた。
見ると、そこにカラ松くんが立っていて、おそ松くんの腕をつかんでいた。
おそ松「…お? カラ松?」
カラ松「…ったく。に抱きつくなっていつも言ってるだろ、兄貴」
おそ松「ははは…ごめんって」
カラ松くんは、ちょっと不機嫌そうな顔だったけど、あのときみたいな怖さはなかった。
一瞬、ちょっとビビったけど……よかった。
カラ松「、行くぞ」
「あ……うん!」
教室を出て行くカラ松くんの背中を追おうとする。
その瞬間、おそ松くんに腕を引かれ、
おそ松「じゃあ、またあとでね。ちゃん」
耳元で、誰にも聴こえないような小さな声で囁かれた。