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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第14章 燈火の 影にかがよふ うつせみの



「ぁっあ…! きょじゅ、ろ…っ」


 律動に合わせて、蛍の声も高さが増す。
 涙を湛えたような潤んだ瞳に、杏寿郎は太い眉を僅かに潜めた。
 このまま快楽に浸って、目の前の体を貪りたい。
 しかし最後の理性を残したのは、未だ震える蛍の体の為だ。


「っは…ああ…っ蛍…っ俺はここだ」


 熱い吐息の合間に、応えるように呼びかける。

 彼女が何に恐怖を抱いているのか。
 何もわからなかったが、一つだけはっきりとしたことがある。
 鬼殺隊に命を握られ、その身を監禁され、しのぶの手により拷問も受けた。
 日常茶飯事に、鬼は滅却だという言葉も聞いていたはずだ。

 それでもこんな恐怖に慄いた姿は見せなかった。
 そんな蛍が、何故ここまで怯えるのか。

 それは、人間であった頃に植え付けられたものだからだ。

 人間は怖いと言った。それ故に鬼になったと。
 そこから連想されるのは、人を人として扱わない行為。
 そんな行為を彼女は強いられたのだろう。

 想像はしたくなかった。
 してしまえば怒りを感じてしまうのはわかっていたからだ。
 見えない怒りの対象に感情をぶつけるよりも、その者の為に体を震わす目の前の彼女を、守っていたいと思った。


「大丈夫だ、俺がいる…っ怖い思いなどさせはしない」


 何を根拠にと思いはしたが、告げる他に術はなかった。
 できる限り体に負担が掛からないように、蛍の感じる様をつぶさに読み取る。

 上気した肌に潤んだ瞳に鼻の抜けるような声で鳴く。
 普段の蛍からは一切感じることのなかった色香を前に、理性は揺れたがそれでも踏みとどまった。


「っがう、の」


 返されたのは、予想もしない言葉だった。


「ちが、の…ッ」

「?」

「怖、くない…けど、怖い…っ」

「ほたる…っ?」


 猛る熱に一突きされる度に、体は過敏に跳ねる。
 名を呼ばれる度に、胸の奥が切なくも甘くなる。


「きもち、よくて」


 女の体を熟知した者の抱き方とは違う。
 それなのに杏寿郎に触れられたところから熱が広がり、蛍の意識を蕩けさせるようだった。

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