第13章 鬼と豆まき《弐》
「それは…」
応えられなかった。
その話をするならば、自分の過去を話さなければならない。
実弥が蛍の過去を見てしまったのは偶然だったが、知られて後悔の念は然程生まれなかった。
それは相手が実弥だったからだ。
蛍の過去に同情せず、姉と同じ立場だったからこそ。
今ここで杏寿郎に柚霧の名の意味を伝えることが、どんな影響を及ぼすのか。
未来は未知で、だからこそ怖さがある。
(不死川にどう言われようともよかったけど…もし、杏寿郎にあの時の私を少しでも拒否されてしまったら)
そう思うと、怖い。
「……それ、は…」
「いいんだ。無理に話す必要はない。蛍が抱えているものを、無闇に暴く気はないんだ」
そんな蛍の感情を汲み取るように、杏寿郎は優しく制した。
「前にも言ったように、冨岡だから蛍を死の縁から導くことができた。あの時も、不死川だったから蛍を渦巻く混沌から救い出すことができたと思っている」
杏寿郎のその感情に偽りはなかった。
自分の手で蛍を導いて、その身を挺して守りたいという思いは勿論ある。
しかしそれ以上に優先すべきは蛍自身なのだから。
「その時々で、その者にはその者の役目というものがある。ただ…それ故に、蛍の感情が揺らいでしまわないかと。己の感情の奥底が稀に、震えるんだ」
「そんな自分が不甲斐ない、」と溜息をつく杏寿郎に、蛍は口を噤んだままじっと耳を傾け続けた。
(……ん?)
傾け、続けていた。
からこその唐突な疑問。
「待って、杏寿郎」
「む?」
最初こそ不安が募ったが、よくよく聞けば頸が横に傾く。
生まれた疑問に、思わず片手を前に出して今度は蛍が制した。
「ちょっと訊きたいことが」