第4章 柱《壱》
「煉獄よりお館様の方が何枚も上手だったってことだな。ま、当たり前のことだけどよ」
「…俺はお館様に一杯食わされたということか…」
言い様によっては悪い意味とも捉えられるが、杏寿郎の中に負の感情など一つもなかった。
確かに当主の思惑通り、彩千代蛍を見るきっかけとなった。
そして初めて鬼への理解を示した自身のことを、嫌悪などしていない。
「うむ! 流石お館様だ。礼を言わねばなるまいな!」
「礼って。前向きだな、お前…」
「俺は彩千代少女を鬼としてではなく、彩千代蛍として認めたいと思った。彼女が鬼殺隊であれば、継子にしてもいいと思えたくらいだ」
"継子"という言葉を杏寿郎の口から聞いた義勇の目が、初めてそこへ止まる。
「何阿呆なこと言ってんだ。鬼が柱の継子だなんて聞いたことないぜ」
「でも煉獄さんが蛍ちゃんに稽古を付けるなら、継子のようなものよねっ」
両手を合わせて嬉しそうに笑う蜜璃とは反対に、やれやれと肩を落とした天元は星の瞬く夜空を仰いだ。
「まずそこがあの鬼にとっての難関だな…」
煉獄杏寿郎の元継子であった蜜璃も、今や柱の一人。
そして今現在、杏寿郎の下に継子はいない。
元々面倒見の良い性格で誰でも大いに受け入れていた杏寿郎の下に、何故一人も継子がいないのか。
それを蛍が知るのは、ほんの一週間後のこととなる。