第11章 鬼さん、こちら。✔
すみちゃん達を怖がらせてたのは、不死川じゃなく私だった。
そのことに愕然と言葉が出なくなる。
「蛍…っもう、いいから」
更には玄弥くんの、私を制止する声。
「兄貴に、手を出さないでくれ」
「……」
本当に何も言えなくなってしまった。
玄弥くんが不死川を慕っているのは知っていた。
これは兄弟間の問題。
部外者の私が、偉そうに何かを言える立場じゃない。
「…ごめんなさい」
湧き立つ感情が見る間に萎んでいく。
力を抜いて、掴んでいた不死川の手を放した。
するとざわざわと私の足元から広がっていた影も、徐々に小さく萎んでいく。
「それがテメェの血鬼術か…力を付けたなら、操るくらいできるようになれ。だからテメェには監視が必要なんだよ」
不死川の指摘にも何も返せなかった。
日頃ばしばし殺気を飛ばしてる不死川だけど、その殺気はすみちゃん達にはちゃんと向けていなかったんだ。
空気を重くしたその殺気は、玄弥…くん……に…?
「?」
…あれ?
「…不死川…?」
「あァ? まだ戦ろうってのか」
「いや…それ──」
私の目に映るもの。
不可解なその矛盾につい持ち上がった手が、先を指差す。
ヒュッ
風を切る音は、その間で流れた。
「?」
反応が遅れたのは、目の前の不死川を凝視していたからだ。
それから視線が移ったのは、私の手元。
風を感じた手元を見れば、立てた人差し指が──ない。
え?
ひらりと視界を舞う白い布。
それは胡蝶の羽織にも似ていた。
美しい羽虫のようにひらりと舞って、すみちゃん達の前にとんと着地した一人の少女。
その手にした抜刀を振ると、ぴっと少量の血が飛んだ。
ころりと足元に転がる細長い何かにも、血の筋が。
綺麗な断面図で切断されていたのは、鋭い爪を持つ鬼の指。
と同時に、等しく綺麗な断面図を持つ私の指の根本から、ぴゅうっと赤い噴水が舞った。
…え。
「いい痛いィイ!?!!」
「キャー!? 蛍さんの指ぃー!!」
「指が!!!」
「斬られてる!!!」
なんで!?!!!
「どうせトカゲみたいに生えてくんだろォ…煩ェな」
「そういう問題じゃな痛い!!!!」