第11章 鬼さん、こちら。✔
「いや。俺の止血の甘さもあった。蛍は何も悪くない。寧ろ喰らい付かなかっただけ上出来だ」
そうだとしても杏寿郎を舐め…舐めた、なんて…多分、その腕でしょ? 舐めたの。
犬みたいに舐め取ったんでしょ? 私。
恥ずか死にたい。
「うう…穴があったら入りたい…」
蹲ったまま顔を上げられずにいる私に、気遣ってくれたのか。
「まだ血の匂いを纏っているはずだ。風呂場で洗い流してくるといい」
「…うん」
逃げ道を作ってくれた杏寿郎に、ありがたく甘えることにした。
今は杏寿郎の顔を満足に見られない、し。
「杏寿郎も、体…その、綺麗に拭いてね…」
私が舐めたところ。
とは言えず。
「俺の心配は無用だから、行っておいで」
優しい声に押されるまま、頭を下げて部屋を出る。
ちらりと襖の隙間から垣間見た杏寿郎は、苦笑混じりの優しい顔をしていた。
うう…なんか大人な対応…杏寿郎も多分、私とそんなに歳は変わらないだろうに。
私だけ余裕がないようで余計に羞恥が増した。
「…はあ」
廊下に出て、また一つ熱い吐息が落ちる。
まだ鼓動がどきどき鳴ってる。
義勇さんの血を初めて飲んだ時は、あまりにも夢中で気付かなかったけど…。
朧気な意識の中で感じた、色と、声と、その体温。
私に触れてくれるどれもが心地良くて、それでいて──…気持ち、よかった。
血に高揚するのはわかるけど、あの色も声も体温も杏寿郎のものだ。
それに逐一反応していた私は、鬼というかもう…
「…変態だ…」
堪らず自分を詰って顔を両手で覆う。
今にも湯気が出そうなくらい、熱かった。