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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第11章 鬼さん、こちら。✔



 やがて近くの一室の襖を開けると、ようやく杏寿郎は足を止めてこちらを見た。


「座れ」


 有無を言わさない圧を発することはよくある杏寿郎だけど、今はなんだか一味違う。
 言われるがままに畳の上に正座すれば、向かいに杏寿郎も静かに腰を下ろした。


「どうやら俺は、まだ蛍に師範として認められていないらしいな」

「っそんなことは」

「なら何故冨岡の下へ行く。俺も血液提供者になると、お館様の前で告げたはずだ。求めるものならここにある」


 己の胸に片手を当てて告げる杏寿郎に、何も言い返せない。

 その通りだ。
 屋敷にいるかもわからない義勇さんをわざわざ尋ねるより、今此処で杏寿郎に血を貰った方が効率も良いし当然の行為だと思う。
 わかっているから反論できない。

 でも。


「血は…義勇さんのしか、まともに飲んだことがないから…」


 膝の上で握った拳を見下ろして、真意を伝える。
 こんなこと、あんまり言いたくないけど…。


「他の人の血を飲んだら、自分がどうなるか…わからないから、怖くて」

「…だからと言って冨岡一人に責任を負わせては、俺や不死川が名乗り出た意味がない」


 私の理由は杏寿郎の意に反さなかったのか。ほんの少し、その声から圧が消えた。

 うん。やっぱり杏寿郎の言う通りだ。
 いつも真っ直ぐ志を逸らさない杏寿郎は、正しいことを言う。
 そんな杏寿郎みたいになれたらいいのにと、憧れもあったから、彼の継子を望んだのかもしれない。


「俺は誰だ? 彩千代蛍」

「え?」


 唐突な問いに顔が上がる。
 真っ直ぐにこっちを見ている杏寿郎は、少しの笑顔も浮かべていない。
 でも不思議と怖くはなかった。


「炎柱の、煉獄杏寿郎」

「そうだ。この目で人を喰らう鬼をごまんと見てきた。この手でその鬼達を全て滅してきた。目の前で血を飲む鬼を御せぬ程、非力な人間ではない」

「……」

「怖がってもいい。だがそれしきのことで俺の君を見る目は変わらない。それだけは信じて欲しい」


 ああ、本当に。
 聴く度に驚かされる、その言葉の力強さ。
 不思議と信じたいと思わせる力が、杏寿郎にはある。

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