第11章 鬼さん、こちら。✔
「ふぅ。これで全部、と」
杏寿郎から受け取ったお肉を冷蔵庫に入れて、よしと閉じる。
それにしても凄いなぁ、この箱…氷を上の台に入れて置けば中々溶けないし、食材の保管もできる。
でも早めに食べるに越したことはないから、明日にでも痛み易いものから使っていこう。
炎柱邸に戻り一通り食材の整理を終えて、一息つく。
杏寿郎の晩御飯は、既に後藤さん達の所へ行く前に済ませてあるし。
この後は自主鍛錬でもしながら──
「蛍」
「ん? あ、おやすみなさい」
「いや」
呼ばれて顔を上げれば、廊下に立つ杏寿郎に手招きをされた。
身形は寝間着の浴衣だから寝る準備は万端。
髪の毛も自分で乾かしたのか、向きは重力に従ってはいるけどしっかり乾いてる。
何かやることあったっけ?
「何?」
「……」
「杏寿郎?」
傍に寄れば、じっと見下ろしてくる瞳と重なる。
と、応えることなく伸びた杏寿郎の手が、そっと私の頬に触れた。
触れて感じるその体温に、ぴくりと肌が震える。
「杏寿郎? なに?」
「…俺は君のなんだ?」
え?
「…私の師範、だけど…」
急な問いに驚いたけど、答えは間違っていない…はず。
恐る恐る答えれば、変わらず強い瞳が見透かすようにこちらを向いていた。
「そうだ。手をかけている継子の変化くらい、見分けられないことはない」
「…ぇ…」
頬に触れていた指先が、するりと肌を辿って下る。
喉元を撫でられて、そわりと肌が騒いだ。
「飢餓が出ているんだろう」
疑問符なんて付けていない。
迷いのない言葉だった。
「…なんで」
「いつもより瞳孔の開きが刃のように鋭い。集中力の続かない頭に、浅く速い呼吸。いつもの君ではない」
杏寿郎の指摘は尤もかもしれないけど、ほんの些細な変化だ。
瞳孔の開き具合なんてしっかり確かめないとわからないはずだし、呼吸もそこまで乱してない。
ぼーっとしてしまうことは、鍛錬疲れとかで前にも偶にあったはず。
そのほんの些細な変化の違いを見透かした杏寿郎には、言い訳なんて通用しないと悟った。