第10章 世の中よ 道こそなけれ 思ひ入る✔
──人は守り、助けるもの
朧気な意識の中で、何度もそう諭された。
重厚でいながら優しい声。
──傷付けてはいけない
人間は家族なのだ。
ひ弱な彼らは、無垢で弱い弟や妹達と同じ存在。
──絶対に、傷付けない
ぎゅっと少女の手が、身に着けていた羽織を握りしめる。
その目は一度炭治郎へと向き、強く瞑るとぷいと目の前の実弥から顔を逸した。
「…!」
「どうしたのかな?」
「鬼の女の子はそっぽを向きました」
「不死川様に三度刺されていましたが、目の前に血塗れの腕を突き出されても我慢して、噛まなかったです」
目の見えない耀哉に代わって、両側に付き添う娘達が今起きた出来事を伝える。
「ではこれで、禰豆子が人を襲わないことの証明ができたね」
顔を背ける禰豆子を唖然と見ていた実弥の目が、更に見開く。
「炭治郎。それでもまだ、禰豆子のことを快く思わない者もいるだろう。証明しなければならない。これから、炭治郎と禰豆子が鬼殺隊として戦えること。役に立てること」
突如向けられた自分への声に、はっとした炭治郎が慌てて縁側から退き、両手を地面に付き頭を下げる。
「十二鬼月を倒しておいで。そうしたら皆に認められる。炭治郎の言葉の重みが変わってくる」
(…なんだろう、この感じ…ふわふわする。声? この人の声の所為で、頭がふわふわするのか?)
まるで不思議な高揚感だった。
穏やかな耀哉の声に諭されていると、不思議と気持ちが昂ってくる。
「っ俺は…! 俺と禰豆子は、鬼舞辻無惨を倒します! 俺と禰豆子が必ず! 悲しみの連鎖を断ち切る刃を振るう!!」
その熱に押されるままに、勢い良く顔を上げた炭治郎が決意表明を見せる。
堂々と鬼の始祖を倒すと宣言する熱き炭治郎の思いに、耀哉はにこりと優しい笑みを向けた。
「今の炭治郎にはできないから、まず十二鬼月を一人倒そうね」
「………ハイ。」
身の丈に見合わない大口を叩いたのだと、その穏やかな指摘で悟った。
途端に顔を羞恥で赤く染める炭治郎に、ぷくりと蜜璃の頬がリスのように膨らむ。
(ダメよ笑ったら。ダメダメダメ…!)
ぷるぷると震える体は、意表を突かれた笑いのツボの所為だ。