第37章 遊郭へ
堕姫の頸を斬り落としたのは、まず間違いなく天元だ。
その速過ぎる斬撃を炭治郎は目で追うことができなかった。
「きっ…(斬った! 頸が落ちてる!! 宇髄さんが斬ったのか…!?)」
「おい」
「!?」
「戦いはまだ終わってねぇぞ。妹をどうにかしろ」
再びずずいと炭治郎の眼下に迫る天元の顔。
我に返る炭治郎の腕の中で、再び禰豆子の暴れる激しさが増した。
「グァアア!!」
「禰豆子っ」
「ぐずり出すような馬鹿餓鬼は戦いの場に要らねぇ。地味に子守唄でも歌ってやれ」
「ガァアアァア!!!」
その助言を皮切りに、禰豆子が再び強靭な足腰を使って床を蹴り上げた。
炭治郎に羽交い締めにされていた角度により、今度は屋根には衝突せずに壁の襖へとぶつかる。
そこは隣部屋へと繋がっている襖ではなく、外へと続く襖だった。
炭治郎諸共外へと飛び出した禰豆子は、夜の闇に溶けるように呆気なく落下した。
此処は二階だ。それでも鬼殺隊である炭治郎と鬼の禰豆子なら命に別状は無いだろう。
冷静な目で見据え続けていた天元が、ゆっくりと口を開く。
はぁ、と溢れた息は溜息とも取れず。どこか安堵も入り混じる吐息をついて、ゆっくりと顔を上げた。
その目がようやく映し出したのは、炭治郎を追うことなく別の窓際に足をかけていた鬼。
「……お前な」
未だ驚いた顔でこちらを見ていた蛍だった。
「ったく」
言いたげな言葉を飲み込み、がしりと頭を掻く。
片手に二対の日輪刀をまとめ持つと、堕姫を前にしても動かなかった腰を上げた。
しゃらりと額当ての宝石が鳴る。
目の前に歩み寄る天元の影が顔に差して、はっと蛍は口を開けた。
「っ天元、」
ぽん、と軽い衝動が頭に乗った。
包むような大きな手が、蛍の頭に触れている。
「よくやった」
「…え?」
「生きてりゃ上出来だ。怪我もねぇな」
「う、うん」
ぽんぽんと二度頭を撫でたかと思えば、今度は目に見えてはぁあ〜と息をつく。
呆れた溜息ではない。安堵のものだ。
向けられる視線がそれだと語りかけていて、蛍は戸惑いつつ小さく頷いた。