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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第37章 遊郭へ



「そうだ、これもおまけしてやろう。白梅ちゃんには特別だ」

「わ、綺麗なこんぺいとう。ありがとうございます」


 小さな小瓶に入った色とりどりの星屑のような砂糖菓子。
 鬼である蛍には食べられるものではないが、禿仲間である少女達のおやつにはなる。
 ぱっと少女の顔が花咲けば、周りの大人達の顔もたちまちに笑顔に変わる。
 その笑顔の裏側には下心がある者もいるだろうが、タダで貰えるもの程この花街で貴重なものはない。

 いそいそと蛍が金平糖の入った小瓶を懐にしまっていれば、不意に来た道から人の賑やかさが伝わってきた。


(あれは…)

「おや、誰かと思えば鯉夏花魁じゃあないか」

「こいなつおいらん」

「なんだ、白梅ちゃんは知らねぇのかい?」

「ときと屋の花形花魁ですよね」

「お。知ってたか」

「ありゃ花魁道中だなぁ。鯉夏花魁ほどの遊女の道中が見られるたぁ運がいい」


 しゃなり、しゃなりと優美に高下駄を進ませ歩む、花魁が一人。
 目を見張る美貌は、蕨姫花魁とは違い穏やかな表情を添えている。

 鯉夏花魁のことは蛍も風の噂で知っていた。
 しかしこの目で見たのは初めてだ。
 評判と噂が立つだけの美貌だと改めて思い直しながら、はっと蛍の顔が上がる。

 巷で評判の花魁だからこそ、人も賑わう。
 そんな目を惹く場には、柱である宇髄天元の目も向くかもしれない。


「お会計、これでいいですか」

「ん? ああ、丁度だな…って白梅ちゃんっ」

「鯉夏花魁をもっと近くで見てきます!」


 手早く会計を済ませて店を出る。
 賑わう人混みなら、堕姫の監視も細部にまでは至らないかもしれない。
 その隙間を掻い潜り、天元と接触を計れたなら。


「必死だなぁ」

「そりゃ相手はあの鯉夏だ。白梅ちゃんだって目標にしたくもなるさ」

「俺ぁ白梅ちゃんも将来有望だと思うぞ。ありゃいい花魁になる」


 ぱたぱたと小さな草履を鳴らして駆けていく少女を、店の男達が笑って見送る。
 彼らの目には、微笑ましい禿としての手本のような少女の後ろ姿にしか見えていない。

 その目が、少女らしかぬ真剣さを帯びていたことなど露知らず。

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