第36章 鬼喰い
日輪の刀は持たない、己の身一つで悪鬼を狩る鬼。
無限列車の任務で遭遇した上弦の参により、蛍は敵である鬼側にも狙われている存在だと知れた。
それでも単身の任務を許可しているお館様の思惑はどこにあるのか。
炭治郎や禰豆子のように、そこに無惨が飛びつくのを待ち構える為か。
それとも蛍の足元で常に揺らいでる影の獣が、かつての炎柱のような気配を纏っている為か。
「…チッ」
考えたところで結論は出ない。
それでも実弥の体の奥底で燻る感情に、無意識に舌を打った。
小芭内の視線をまともに受けられない程に、未だ心は破れている癖に。
蜜璃の慰めの声が届かない程に、未だ感情は不確定な癖に。
(そんな状態で玄弥を構う余裕があんのかよ、お前に)
自分の知らないところで、あの鉢植えを弟に渡したことへの怒りではない。
そんなものは玄弥の感謝の伝言一つで消えていて、燻る感情は既に別のものへと向いていた。
一度も振り返る気配のない、滑るような足取りで暗闇を求めて向かう蛍へと。
鬼だから。鬼殺隊だから。炎柱の継子だから。
理由を挙げれば幾らでも付け足せる。
けれどもそのどれもがただの飾りにしかならなかった。
飾りの下にある思いの正体は、未だ見えないけれど。
「他人に目をかける暇があるなら、自分を見やがれってんだ」
呟くように吐き捨てた言葉は、暗闇に溶ける鬼には届かない。
それでも実弥の両目は、逸らすことなくその背を捉え続けていた。
自分自身を見ようとしない、その目の代わりであるように。