第36章 鬼喰い
「限界だっつってたろ。飲まねェのかよ」
「え…あ、いや…一応、稀血なので…屋外より室内で取った方がいいかなと…」
千寿郎のことでも突っ込まれるかと思っていたが、予想外の内容に体は拍子抜ける。
それでも返答は本音が混じったものだ。
少量で済む稀血の効果は計り知れない。
それと同時に、鬼の体に与える悪影響も計り知れない。
特に実弥の稀血は、同じ類のものでも群を抜いている。
こんな小さな木陰の中で摂取するのは危険だと肌で理解していた。
「そうかよォ。んじゃ行くかァ」
「え?」
「ア?」
「や、行くって。何処に」
「この流れでわからねェ程、頭緩いのか? 室内に決まってんだろォが」
「え。でも」
「ついでにそのきったねェ体洗え」
「洗うって一体何処に」
「藤屋敷以外に何があんだテメェ。本当に頭回ってねェな」
「いや、私は」
腕を掴まれ強く引かれる。
軽い仕草に見えても有無を言わさない強さは、柱こそだ。
実弥が腰を上げればつられて上げる形となる蛍に、続くように杏ノ陽も立ち上がる。
抗いを見せる蛍と同じ反応は示さず傍観しているところは、藤の家に向かうことに賛同しているのか。
命があるかもわからない血鬼術のことなどわからない。
元より知る理由もないと、実弥は足を進めた。
「言っただろ、テメェの要望を聞くから俺の要望も聞けってなァ。さっさと肌隠せオラ」
「待っ…要望ってこれっ?」
「話の流れでこれ以外に何があるってんだ。テメェ本当に頭緩くなっちまったのかよ」
「っだから私は必要ないって」
「ったく、るせェなァ。始終異臭巻き散らかされるこっちの身になれってんだ」
「なら傍に寄らなければいいのではっ?」
「テメェが俺の嗅覚範囲内にいンだよ勘違いすんなァ!」
「えぇえ!?(何そのご都合主張!!)」