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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第35章 消えがてに ふるぞ悲しき かきくらし



 それでも本体は傍にいない為か、襲いくる雨水は簡単にあしらえた。
 そこから感じる鬼の気配を探りながら辿れば、再び蛍達の待つ木陰へと戻ることになったのだ。

 水を操る悪鬼。
 見た目は少年でも、気配消しの巧みさや、扱える術の範囲から、それ相応の手練れだと推測した。
 それでも柱である義勇にとっては恐れるに足らず。
 更には蛍を相手にしていた為に、少年の気も散漫していた。
 その隙を見計らって、奇襲をかけたのだ。


(悪鬼は滅した。問題はそこじゃない)


 誰も深手を負わず、悪鬼だけを消滅させるに至った。
 結果だけ見れば上々だ。

 それでも無視できない問題は残っている。


(どう見ても、あの悪鬼への致命傷は"あれ"だった)


 雨の止んだ薄暗い曇り空の下、ゆらゆらと立ち昇る影の塊が一つ。
 全身を揺らぐ炎のような毛を纏う、影の獣。

 その獣が鋭い爪で、いとも簡単に悪鬼の頸を捩じ切った。
 人間であれば即時であっても、少年は鬼だ。
 日輪刀での斬首、もしくは太陽光に身を曝す以外に、その命を滅する方法はない。


(鬼同士の共食い…とは、違う)


 人間を喰らうことができる鬼は、当然ながら同種である鬼も喰らうことができる。
 しかし人間に比べて到底舌が受け付けないのか、そんな事例に出くわすこと自体が稀だ。
 それに蛍自身が少年を喰らった訳ではない。
 義勇の知る鬼の"共食い"とは程遠い現象に、その類ではないことは理解できた。

 だからこそ不可解なのだ。

 蛍は鬼だ。
 鬼殺隊に属していようとも、剣士ではない。
 日輪刀を持たない彼女の術が、何故悪鬼を消滅させられたのか。


「…彩千代」


 深呼吸を一つ。
 呼吸を整えると、先程から一言も発さない蛍へと義勇は体を向けた。


「……」


 義勇の呼びかけに、蛍の体は反応を示さない。
 蝶屋敷の屋根の上で出会った時のように、人形のように立ち尽くしている。

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