第33章 うつつ夢列車
知らぬ鬼の住処などに連れていかれるよりは余程いいだろう。
それでも相手は上弦の参。
それが魘夢と戦っている杏寿郎達と鉢合わせるのは決して良いことではない。
「あのッ列車なら私が知っていますから! こちらではなく」
「跳ぶぞ」
──ドンッ!!
咄嗟に言い訳をする暇もなかった。
手短に応えた男が、腰を低く落とす。
素足が硬い土を踏み潰すと同時に轟音を残して、その場から消えた。
「っあ…」
一人取り残された若菜の目では追えなかった。
蛍を担いだ男が、消えた線路の先へと高く高く飛躍したことを。
「…あれが、上弦…」
ィイン…と耳鳴りのような空気の振動だけを残して、その場に静寂が訪れる。
それでも体に残る圧の余韻は、魘夢を前にした時よりも体を微動だにさせなかった。
「魘夢、よりも、格上(うえ)の鬼」
身体の芯に訴えるような、圧倒的な力の差を前にして。