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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第33章 うつつ夢列車



 ──ドォンッ!!


 連なる篝火が、一つの斬撃となり大木を貫く。
 凄まじい音を立てたのは衝撃音だけでなく、斬撃により倒された大木自身だった。

 辛うじて薄皮一枚で繋がっている大木が、途中からぽきりと折れる形となり、地面に頭をつく。
 高い樹木の頭は葉が生い茂っている。
 茂みのようなそこに潜り込むと、僅かにできた陰の中に蛍を抱いたまま身を置いた。

 触れる大木の葉の感触は確かにあるが、恐らくこれも幻覚に違いない。
 それでも蛍の体から焦げた肉の臭いが鼻を刺し、杏寿郎の背筋を冷やす。


「蛍、ここならどうだ。少しは痛みを抑えられるか…っ」

「っ…ぐ…」


 顔の半分が赤黒く焼け付いている。
 酷い重度の火傷跡に顔の険しさを増しながらも、杏寿郎はすぐさま次へと思考を向けていた。


「とにかく此処から出る。出口を見つけなければ。蛍が目覚めたのはいつだ?」

「…っ…?」

「俺は父上を前にした時だった。生家での記憶は、そこからある」


 思い返せばはっきりと覚えている。
 意識を明確にしたのは、背を向けて寝転がる父を前にした時だった。
 それから千寿郎に会い、陽の下を歩く蛍を見た。

 返せば、それ以前の記憶はない。
 どうやって生家へ辿り着いたのか。
 休暇か。任務か。報告か。
 なんの為に足を運んだのか。

 当然としてあるはずのことが、記憶からすっぽりと抜けているのだ。


「出口があるとしたら、記憶が途切れているところが糸口だ。俺と蛍の共通点はなんだ?」

「ぎ…わ、からな…」

「そんなはずはない。蛍の記憶が消えているところだ。思い出してくれっ」


 燃え盛るような炎はもう上がってはいない。
 ただ黒々と焼け焦げた痛々しい顔を向けたまま、蛍はか細い声を零した。

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