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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第33章 うつつ夢列車



「蛍は縄を繋がれていないようだったけど、なんともないか?」

「縄?」


 頸を傾げる蛍の前に、炭治郎が腕を掲げる。
 そこには太い縄が巻き付けられており、先端は焦げるような跡を残して焼き切れていた。


「起きたら縄で繋がれていたんだ。俺も煉獄さんも、善逸と伊之助も。この見知らぬ人達と」

「え…だ、誰。この人達」

「俺にもわからない。ただ意図的に何かをしようとしてたのは確かだ。夢で見た出来事も、もしかしたらこの人達が関わっているのかも…」

「夢…ゆめ…?」


 見慣れない人間達。
 炭治郎の語る夢。
 情報量の多さにすぐには理解できなかったが、朧気に掴むことはできた。

 あの光景は鬼が作り出した幻──つまりは夢だったのだ。


(あの姉さんが…夢)


 妹の幸せを願い、時に呪い、世界を愛し、同時に憎んだ。
 あの姉もまた。


(夢、だった?)


 くしゃりと己の髪を掻き握る。
 座席に座ったまま俯き沈黙を作る蛍に、心配そうな面持ちで炭治郎は膝をついた。
 視線を下げて、下から覗き見るように蛍の顔色を伺う。


「蛍も…夢を、見たんだな」

「("も"って)…炭治郎も?」

「うん。まるで俺の願望を見抜いたような夢だったよ」


 口元にはほのかな笑みを浮かべていながら、告げる瞳が哀しみに映ろう。
 顔に押し当てていた手を引いて、蛍もまた炭治郎の表情を伺った。


「鬼の術だってわかってても抗えなかった。沢山ありがとうとごめんと思う気持ちが交差して、許しを乞うことしかできなかった」

「…でも炭治郎は、自分で目覚めたんでしょ。私に最初に"気付いた"って言ってた意味。あれ、自分自身で気付けたからだよね」

「……うん。本当なら…俺はずっと此処にいたはずなのにって。何度も後悔した。本当なら、本当ならって。…でももう俺は失った。戻ることはできない」


 心配するように、禰豆子がそっと寄り添う。
 幼子と化した小さな妹の頭を撫でて、炭治郎は腰を上げた。


「忘れることなんてない。どんな時も心は傍にいる。だから…先に進む俺を許して欲しい。そう、告げてきた」

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