第33章 うつつ夢列車
現実を見つけ出した成果か。
目の前の全てが幻だと自覚すれば、途端に激しい頭痛は消え去った。
(此処はどこ…っ幻? 無限列車に出る鬼の血鬼術!?)
京都の鬼のように幻術を扱う鬼はいる。
目の前のこれもまた悪鬼が作り出した幻なのか。
「蛍ちゃん何を言ってるの? 姉さんにわかるように説明してッ」
辺りを見渡す蛍の腕を、切羽詰まった表情で握る姉の姿は鮮明だった。
姿形は勿論、声も、匂いも、息遣いまで。全てが本物のように蛍の五感を刺激してくる。
「姉さんは姉さんじゃないのっ私の知っている姉さんは、私の生きている世界には、もう…ッ」
いない。という言葉は口にできなかった。
幻だと頭ではわかっていても、目の前にいる姉は鮮明過ぎる程に、蛍の知っている姉そのものだった。
「(私の記憶を操作してるから? わからない…ッ)朔!」
咄嗟に己の影を呼ぶ。
しかし陽光により足元に作られた影はぴくりとも動かない。
見上げると眩しい太陽も、肌に感じる火の温かさも、まるで本物のようだ。
鬼となり忘れていたはずなのに、温もりを感じてしまう。
一瞬、自分は本当に人間になってしまったのかと錯覚する程に。
「さく? 何を言ってるの? 蛍ちゃん、私を見て!」
「っ」
腕を掴む姉の体温でさえも。
振り解こうと思えば簡単にできる。
目の前の姉の力は、非力な人間の女性そのものだ。
それでも蛍には振り解けなかった。
「蛍ちゃんッ!」
懸命に呼びかける姉の視線も直視できない。
理解しているはずなのに、脳内のどこかで錯覚してしまう。
(これが血鬼術の能力(ちから)?)
ただ似ているだけではない。
それそのものが姉だと錯覚してしまう程、目の前の人物は息衝いていた。
だからこそ今まで無限列車への任務に向かった剣士達は、誰一人戻ってこなかったのか。
幻と言うには強烈過ぎる程の存在を垣間見て。