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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第33章 うつつ夢列車



 姉を恋しく思うが故に、感情が高まることは今までにも幾度もあった。
 それでもこんなにはっきりと感情が形になって溢れたことはなかった。
 だからこそ戸惑いが隠せない。

 拭えど拭えど落ちてくる。
 止まることを知らない涙。


「ごめんなさ…っちょっと、止まら、なくて」

「…何か哀しいことでも思い出したの?」


 ひくりと、喉が小さくしゃくり上げる。
 心配そうな面持ちで覗き込んでくる姉の顔が、溢れる涙でぼやけた。


(違う)


 哀しいことではない。
 今この場で胸を熱くするものは、こみ上げるものは、堪らない思いだ。
 嫌な感情ではない。
 寧ろ切望に近い気がした。


(だって、ずっと願ってた)


 離れていた姉と、こうして共に過ごせたらと。
 体温を感じて、声を聴いて、笑顔を交わせたらと。


(ずっと)


 世界の中心だったひとだ。
 その姉を失って、世界の立ち方さえも忘れていた。


(失った?)


 失ってなどいない。
 少し離れていただけだ。
 そう言い聞かせようとするのに、何故か腑に落ちない。

 心で疑問視しても、体が訴えるように。


「…?」


 涙を拭っていた指先が微かに震える。
 止めようとしても止まらない。

 何故かはわからない。
 それでも何かを知っている気がした。

 真っ赤に塗り潰されたような世界。
 世界が崩れ落ちる瞬間を、確かに見たことがある。
 知らないはずなのに、知っている世界だ。


「私、は」


 口を開けば語尾が震えた。
 俯く顔から落ちる雫が、音もなく乾いた地面を濡らす。

 切望していたはずだ。
 何か、大切なことを。


「姉、さんと…杏寿郎、と…皆、で」

「…蛍ちゃん…?」


 あやふやなものを形にするように口に出して並べていく。
 自分の願いを。

 大切な人達と生きていくこと。
 同じ人間として。
 その思いがあったからこそ、鬼としてでも生きていけたはずだ。

 自分を支えてくれたもの。
 それはどんな時も傍にいてくれた杏寿郎と、遠く離れていても焦がれた姉の存在があったからこそ。

 だから願ったはずだ。
 大切な二人と共に、生きていける世界を──




 ──ビキッ




「ぅあッ」

「ほ、蛍ちゃんっ?」

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