• テキストサイズ

いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第33章 うつつ夢列車



「ふふ。ようやく実感してくれた?」


 広い背中に回る二つの手。
 ぎゅうぎゅうと抱き締めてくる強さに笑いながら、柔く目を細める。


「まだ夢現のようだ」

「そっか」


 初めて想いを繋げた日も。
 初めて体を繋げた日も。
 夢現のようだと呟いていた杏寿郎らしさに、尚も顔は綻んだ。


「じゃあ憶えておいてね。私がここに立っていること」

「ああ。…あたたかいな、ここは」

「うん。私も、なんだか初めて知った気持ちになっちゃった」


 杏寿郎の肩に顔を埋めて、陽だまりの匂いを胸いっぱいに吸い込む。


「外はこんなにあたたかかったんだなぁって」


 知っていたはずなのに。
 こんなにも実感したのは初めてだった。

 あたたかい。
 太陽の降りそそぐ世界も。
 感情を込めて抱きしめてくれるこの腕の中も。


「俺も、初めて知った気がする」


 離すまいと抱きしめた体をそのままに、開いた金輪の双眸が愛しい存在を探す。
 輪郭さえもぼやける近さに、肌に感じる体温に、己の衣服に埋もれてくぐもる優しい声に。
 ひとつひとつ、愛おしさをただ感じて。


「こんなに幸せな日は」


 光が照らす世界にただ二人、立っている。
 それが泣きたくなるほどに幸福だと、言葉にならずに噛み締めた。

/ 3467ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp