第33章 うつつ夢列車
「ふふ。ようやく実感してくれた?」
広い背中に回る二つの手。
ぎゅうぎゅうと抱き締めてくる強さに笑いながら、柔く目を細める。
「まだ夢現のようだ」
「そっか」
初めて想いを繋げた日も。
初めて体を繋げた日も。
夢現のようだと呟いていた杏寿郎らしさに、尚も顔は綻んだ。
「じゃあ憶えておいてね。私がここに立っていること」
「ああ。…あたたかいな、ここは」
「うん。私も、なんだか初めて知った気持ちになっちゃった」
杏寿郎の肩に顔を埋めて、陽だまりの匂いを胸いっぱいに吸い込む。
「外はこんなにあたたかかったんだなぁって」
知っていたはずなのに。
こんなにも実感したのは初めてだった。
あたたかい。
太陽の降りそそぐ世界も。
感情を込めて抱きしめてくれるこの腕の中も。
「俺も、初めて知った気がする」
離すまいと抱きしめた体をそのままに、開いた金輪の双眸が愛しい存在を探す。
輪郭さえもぼやける近さに、肌に感じる体温に、己の衣服に埋もれてくぐもる優しい声に。
ひとつひとつ、愛おしさをただ感じて。
「こんなに幸せな日は」
光が照らす世界にただ二人、立っている。
それが泣きたくなるほどに幸福だと、言葉にならずに噛み締めた。