第33章 うつつ夢列車
「それで、子分がどうとか。面白い話をしているな」
腰を上げて、見開く双眸が捉えたのは伊之助だった。
「その風貌もまた面白いものがあるが。猪頭(いのがしら)少年!」
「ぅおッ…な、なんだよ…!」
「俺の名は煉獄杏寿郎! 鬼殺隊の炎柱だ!」
「だからなんだってんだッそれくらいでオレがビビると思うなよ…!」
「うむ。臆さぬ姿勢は認めよう! だがしかし!」
ずぃっと伊之助の顔面に顔を近付けると、杏寿郎は口角を上げて尚笑う。
その中で爛々と鋭く光るような双眸に、伊之助は反射的に一歩引き下がった。
「蛍は俺の継子だ。君の子分にするとあらば見過ごせないところがある」
顔を近付けたかと思えば、反して声は静まる。
その台詞の節々に言いようのない寒気を感じて、伊之助はぶるりと剥き出しの肌を震わせた。
五感の中で特に野生の勘のようなものが鋭い伊之助だからこそ感じられた寒気だ。
「だ…っだからなんだってんだ。子分と継子じゃ違ぇだろッ」
「成程。では子分とはなんだ?」
「ハ?」
「君の定義付ける子分とは一体どんなものだ。蛍に何を命じて何を託す?」
「テイギ? 何言ってんだコイツ…」
「内容次第では俺も口を挟ませてもらうぞ」
「ハァ? なんでお前みたいなギョロギョロ目ん玉が口出さなきゃなんねぇんだよッ俺と子分一号の話だろーが!」
「我が継子を子分一号と呼ぶ者には易々と託せはしないな!」
「ちょっ…伊之助何言ってんの相手は柱だぞ!?」
「というか此処、列車内なんだけどな…」
「そうだな、あまり煩くすると他の乗客に迷惑がかかるし。伊之助、もう少し声を落として話したらどうだ?」
「師範もですね」
「いやそういう問題っ?」
引け腰ながらも伊之助の性格上、負けるものかと鼻息は荒くなる。
対する杏寿郎も退く気配はなく、己を突き通すところはどこまでも突き通すことを知っているからこそ、蛍にも苦い笑みが浮かぶ。
その中で善逸だけがただ一人、顔を青くして一隊士として正常な反応を見せていた。
相手は鬼殺隊で最高位の地位につく柱である。
その男相手に噛み付くとは何事か。