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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第33章 うつつ夢列車



 夕暮れ時。
 人通りの多い道を二つの足が歩む。
 それだけ賑わうのは町の大きさも関係していたが、何よりそこが多くの人の行き交う場所だった為だ。

 町の玄関口ともなる駅。そのホーム。
 夜訪れた時は客人など一人もいなかったそこは、沢山の人で溢れ返っていた。


「駒沢村の駅も賑やかだったけど、ここの駅はすごいね」

「うむ。京の都に引けを取らない、大きな町だ」

「近くに機関庫があったくらいだもんねぇ」

「沢山の列車の寝屋となっているのだろう」


 二つの足が進む影は、茜色の夕日に伸びに伸びゆく。
 辿り着いた駅ホームの出入口。
 アーチ状の屋根を潜り、ホーム内へと踏み込めばぐっと他人との距離が近付いた。


「調子は?」

「順調。そろそろ陽が沈むし、これからもっと元気になるよ」


 振り返る男の肩から、ふわりと白の羽織が揺れる。
 放射線状に広がる炎を模した羽織に、深い臙脂色の隊服。
 羽織により隠れているが、腰のベルトに帯刀している剣士──杏寿郎は既に任務へと切り替えた顔で背後を伺う。

 ついて歩いていた蛍は竹笠の下で、にっこりと笑顔を返した。
 世界を茜色に染める太陽の下を歩いていたというのに疲労は見えない。


「うむ、頼もしいな!」


 その様子につられて杏寿郎の顔にも満面の笑みが広がる。


「それにとうとう無限列車に乗れるんだもん。切符売り場はあっちだったかな」

「成程、立派な観光客だな!」


 それも一転。
 そわそわと高揚した心持ちで辺りを見渡す蛍はすっかり、おのぼりさん状態だ。
 返す杏寿郎の笑顔がびしりと固まる。

 花街というそれこそ大きな都に身を染めていたにも関わらず、子供のように色んなものに興味を示す。
 知識としては知っていても、目にしたことがないものも多いのだ。
 そんな蛍だからこそ、ついつい笑顔で流してしまうのだろう。


「──あのっ!」


 隊服羽織の男に竹笠の女。
 特に男は髪色も加えてよく目立つ。

 飛び込むような声に呼び止められ、杏寿郎と蛍は同じタイミングで振り返った。

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