第3章 浮世にふたり
沈黙ができる。
先に静寂を破ったのは、しのぶだった。
「言葉の足りない冨岡さんも面倒ですが、饒舌な冨岡さんも面倒ですね」
溜息混じりに手を差し出してくる。
「包帯を」と言われ、ようやく義勇も理解した。
血に染まった包帯を返せば、興味を無くしたようにしのぶの目が離れる。
「冨岡さんになんの意図があるのかはわかりませんが、鬼を研究するには良い対象です。今後も私の目で彼女を計らせて貰います」
「好きにしろ」
特に意図などはない。
蛍が此処へ来れば、鬼として蔑まれ扱われるのは目に見えてわかっていた。
去るしのぶの姿を追うことなく、義勇は今一度来た道を振り返った。
地下へと続く暗く長い道。
蛍の歩む道も恐らく同じものとなるだろう。
それでも進まなければならない。
そうでなければ、鬼としてでも蛍が命を繋いだ意味はなくなるのだ。
(もし彩千代蛍が本当に鬼として人間を喰らった時は、斬り捨てるまでだ)
だからこそ自分が成すべきことも、義勇は理解していた。
同情など邪魔でしかない。
それがこの浮世で救った、命への責務だと。