• テキストサイズ

いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第31章 煉獄とゐふ者



 はっと顔を上げる。
 蛍の目に見えたのはやはり顔も知らない人ばかり。
 けれど耳に残る小気味良いあの下駄の奏では、確かに少年のものだ。

 姿は見えない。
 声も聴こえない。
 匂いも感じない。

 それでも確かに瞬く瞬間まで"そこ"にいた。

 いないようで存在している。
 見えなくても確かに在るもの。


「…見えてる世界が、全てじゃない…」


 別れの言葉は告げられなかったが、出会いの形から去り際までなんとも彼ららしい。
 自然とそんな感情に至って、蛍は頬を緩ませた。

 白い木漏れ日のような朝日の下で。
 ひらりと手を振り呼びかける。


「またね」


 さよならは言わない。
 いつかまた同じ世界で出会う日を思い描いて。


 先程よりも遠い遠い、朝日も届かない町中の影の奥。
 僅かに残る暗闇の中で、もう一度だけ。






 からん、と下駄の奏でが呼応した。





















/ 3463ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp